日本の伝統産業『和傘』を守り、その魅力を伝える
和傘・水引 工房 明兎
プロフィール
金沢駅から20分ほど。犀川(さいがわ)近くの住宅街に紛れるように、『和傘・水引 工房 明兎』があります。誕生は2012年。工房の代表山田ひろみさんは、和傘づくりをはじめて15年になります。
「子育てが終わって何かやりたいと思っていた時に、たまたま竹工芸の制作実演を見て伝統工芸に興味を持ちました。それが、和傘の世界に入るきっかけです」と山田さん。
さっそく希少伝統産業専門塾の竹工コースを受験したものの残念ながら落選。何とか木工コースに合格できたことから伝統工芸の職人への道が始まりました。当初は、お盆やアクセサリーを作っていたそうです。
●和傘の技術と伝統を守る
そんな山田さんが和傘職人に転換したきっかけは、和傘づくりのノウハウが金沢から消えつつあることでした。金沢の和傘は丈夫なことで知られており、明治、大正期には100軒以上の和傘屋が立ち並んでいたそうです。当時は和傘職人は一人のみ。金沢市は危機感を持ち、和傘が木と竹と和紙からできていることから、その関係の職人に、素地があるもの生業があるものと打診したのです。和傘職人としてだけでは生きていけないからです。
「木工より和傘の方がきれいだよ。そんな言葉に騙されて和傘職人に転換しました」(山田さん)。
和傘をなんとかしなければと推薦された人達を集め、まずは『金沢和傘伝承研究会』が誕生。和傘づくりの材料が集積している和傘シェアナンバーワンの岐阜から講師として招かれたのが、現在、明兎をサポートしている田中富雄さんです。
「講師として足を運ぶ中で、和傘の魅力を広く世間に知らせようという金沢市の強い気運を感じました。ここでなら和傘の新たな可能性を追求できるかもしれないと感じたから明兎の設立に加わりました」と田中さん。
田中さんという強力なサポーターを得て、山田さんの才能も一気に花開いたようです。
様々なイベントにも招かれるようになり、多様なジャンルの伝統工芸の職人たちとの交流も深まっています。そうした中で、木工と同じ時期に始めた水引は制作販売や講師もしています。水引の生徒さんが私の一番の応援団で、私の先生は和傘も作れるのよと言ってくれています。
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山田ひろみさんの受賞歴
2009 金沢市工芸展 奨励賞(木工芸)
2013 いしかわ伝統工芸展in NY 入選(和傘)
2014 金沢市工芸展 入選(和傘)
山田ひろみ代表に聞く『和傘』Q&A
●実用的な金沢の和傘
――岐阜の和傘と金沢の和傘に違いはあるのですか?
山田 岐阜の傘は「開いて華、閉じて竹」と言われます。傘を開くと鮮やかな模様が広がり傘を閉じると一本の竹のようにほっそりとした姿になる。つまり、細身で美しいんですね。内側の糸飾りは単色でシンプル。粋なスタイルです。
――それに対して金沢の傘は?
山田 「使って良し」。雨が多い金沢ですから、雨風が強い日でも、ちゃんと使えることを目的として発展してきました。だから、他の産地よりも和紙は厚く油の量も多目です。また、傘の内側の糸かがりは多色で、岐阜の傘よりも段数が多い。それは装飾のためではなく補強のためなのです。太平洋側と日本海側との気候の違いから、そのようなスタイルの違いができてきたのだと思いますが、現在は、材料のすべてを岐阜市から調達しているので昔のような厚い和紙での和傘作りをすることは難しくなりました。
――「明兎」の和傘の特徴を教えて下さい。
山田 これまでは「岐阜と金沢のいいとこ取り」と思っていましたが、日本全国のいろんな傘を見ているうちに、「傘に一番大切なものは何か?という疑問がわいてきました。今はそれを追及している最中です。
●1本の和傘の製作期間は3カ月
――全ての傘は1点ものだそうですが。
山田 世の中には一人として同じ人はいません。ですから、人と同じ傘ではなく、お客様一人ひとりの個性に合った世界でたった一本の傘に出会ってもらいたいと思うのです。一点もののデザインには、これからもこだわっていきます。
――和傘の制作には、どのくらいの時間がかかりますか?
山田 およそ3か月です。和傘づくりの工程は、数え方によって違いますが、骨作り、繰りこみ、張り、油を引くなど、およそ20から100くらいあると言われています。昔は、それぞれの工程に専門の職人がいて分業で造られていましたが、現在では専門の職人はほとんどいません。骨を組み立てたり、和紙を張ったり、油を引くなど、ほぼ全ての工程を二人でこなすので、時間がかかるのです。
●和傘の魅力を知ってほしい
――どんな工房を目指しているのですか?
山田 「ここに来れば和傘のことわかる」といった場になればいいなと思っています。昔は、和傘関連の工房は沢山あり、街中で職人さんの仕事を見かける機会がありましたが、今ではそんな機会はほとんどありません。だから、うちの工房に来て仕事を見てほしい。また、水引の体験も気軽に行えるようにしたいと思っています。
――『明兎』という名前には、どんな思いが込められているのですか?
山田 メイト(友人)、みょうと(夫婦)、ミントなど、様々な読み方ができます。「開いてミント(みなさい)、さしてミント(みなさい)、触ってミント(みなさい)」など響きもいい。また、傘という文字は屋根の中に人が沢山います。もともと分業制なので製作にはたくさんの人の手がかかわります。また和傘を通じて沢山のご縁も生まれます。人と人との繋がり、ご縁を大切にしたい「明るい兎」。そんな様々な想いが隠されていると、師匠田中が名付けてくれました。
●正しく扱えば何十年でも使える
――金沢では、嫁入り道具の一つに和傘があったそうですね。またインテリアとしても人気ですが、他にどんな用途がありますか?
山田 和傘ということばでなく、傘です。 傘は雨や雪をしのぐもの。日傘はお日様の光をさえぎってくれる。傘は守ってくれるものなので、お祭りや歌舞伎や神事などでも使われます。だからといって、本来、和傘は芸術品でも観賞用のものではありません。使うもの。使ってはじめて良さがわかるものなのです。
――実際に使用するのはもったいないような気がしますが……。
山田 扱いを間違えなければ10年ほど使用できます。たとえば、傘の向き。閉じたとき、洋傘は柄の部分を持ちますが、和傘は胴の部分を持ちます。濡れた時は持つためのヒモがついているので、それを持ちます。傘を立てかける時も、保管する時も、常に頭が上です。逆にすれば、傘の中に水が溜まって和紙が痛んでしまいます。使用した後は、半開きにして陰干しをします。このような基本を守れば大丈夫。もちろん修理も可能です。数十年前の嫁入り道具の傘の修復を頼まれることも少なくありません。
――最後に、お客さんへメッセージをお願いいたします。
山田 若い人は和傘を見たことがない人が大半なのではないでしょうか。実際に見て、触れるために、ぜひ遊びに来て下さい。きっと和傘の素晴らしさが分かると思います。
取扱商品(商品販売)
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売り切れ
四五 紫地 月奴 小花
通常価格 ¥49,500 JPY通常価格単価 あたり売り切れ
工房へのアクセス
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工房名 和傘・水引 工房 明兎
住所 〒920-0867 金沢市長土塀3-8-51
電話番号 090-2125-7256
営業日時 月・金・土・日
(イベント等で不在の時もありますので、お問合せ下さい)